ワンルーム投資が節税にならない理由|サラリーマンが誤解しやすい落とし穴

不動産投資の基礎知識・初心者ガイド

不動産投資の勧誘電話や街頭でのアンケート、あるいはSNS広告などで、必ずと言っていいほど耳にするのが「節税対策になります」という甘い言葉です。特に年収が高いサラリーマンにとって、毎月の給与から容赦なく天引きされる多額の税金が、確定申告をするだけで数十万円単位で戻ってくるという提案は、まるで魔法の杖のように魅力的に映るものです。老後2000万円問題が叫ばれる中、手出しなしで資産形成ができ、なおかつ今の税金も安くなるとなれば、話を聞いてみたくなるのも無理はありません。

しかし、その「節税」の仕組みを正しく、そして長期的な視点で理解しないまま契約書に判を押してしまうと、数年後に節税どころか資産を大きく毀損し、身動きが取れなくなる事態に陥りかねません。実際に、節税目的で始めたはずが、毎月の収支が赤字になり、売るに売れない「負動産」を抱えて相談に来る方は後を絶ちません。この記事では、なぜワンルーム投資が節税になると言われているのか、その会計上のカラクリから、営業マンが絶対に教えない将来のリスク、そして出口戦略における税金の罠まで、業界の裏側を知り尽くした筆者が徹底的に解説していきます。


【この記事で分かること】

  • 「損益通算」を利用した節税の会計的カラクリ
  • 営業トークには出ない「デッドクロス」による将来の税負担増
  • 減価償却切れと修繕費増大による収支悪化のリスク
  • 売却益を大きく削る「譲渡所得税」の計算と罠

ワンルーム投資はなぜ節税になると言われているのか

多くのサラリーマンがワンルームマンション投資に興味を持つ最大のきっかけは、やはり「節税効果」です。本来、不動産投資は家賃収入を得ることを目的とした事業ですが、なぜマンションを買うだけで、会社員としての給与に対する税金が安くなるのでしょうか。そこには日本の税制特有の仕組みである「損益通算」と「減価償却」という二つのキーワードが深く関わっています。営業マンはこの仕組みを巧みに使い、あたかも国が認めた合法的な錬金術であるかのように説明しますが、そこには明確な会計上のロジックと、無視できない副作用が存在します。まずは、この節税のメカニズムがどのように構築されているのか、その基本原理から丁寧に紐解いていきましょう。

ワンルーム投資が「節税になる」と勘違いされる仕組み

ワンルームマンション投資が節税になると言われる最大の理由は、不動産事業で発生した赤字を、会社からの給与所得から差し引くことができる「損益通算」という税制上のルールにあります。日本の所得税法では、複数の所得がある場合、それらを合算して課税所得を計算します。不動産所得の計算上、家賃収入から諸経費を引いてマイナス(赤字)が出れば、そのマイナス分を給与所得と相殺し、全体の課税所得を圧縮することが可能になるのです。

具体的な数字で見てみましょう。例えば、年収800万円のサラリーマンがワンルームマンションを購入し、帳簿上で年間100万円の不動産所得の赤字を出したとします。本来であれば800万円に対して税金がかかりますが、不動産の赤字100万円を差し引くことで、税金の計算対象となる所得は700万円に下がります。会社員の場合、毎月の給与から源泉徴収という形で税金を先払いしていますが、これは年収800万円を前提とした税額です。確定申告によって「私の今年の所得は実は700万円でした」と申告することで、納めすぎた税金が還付金として戻ってくるのです。これが「節税」の正体です。

しかし、ここで非常に重要な視点が抜け落ちがちです。それは、「その赤字は、現金の流出を伴う本当の赤字なのか、それとも帳簿上だけの計算上の赤字なのか」という点です。多くの営業トークでは、「現金の持ち出しはほとんどなく、減価償却費などの計算上の経費で赤字を作るので、お財布は痛みません」と説明されます。確かにそのようなケースもありますが、実際には金利負担や管理費などが家賃収入を上回り、毎月現金を補填している(=本当の赤字)ケースも少なくありません。仕組み自体は合法ですが、「赤字を出すこと」を投資の主目的にすることには、事業としての根本的な矛盾と大きなリスクが潜んでいます。

項目内容節税への影響と意味
不動産収入家賃、礼金、更新料、共益費などプラスの要素(収入が増えれば税金も増えるのが本来の姿)
必要経費管理費、修繕積立金、借入金利子、減価償却費、固定資産税などマイナスの要素(ここを大きく見せることで所得を圧縮する)
損益通算給与所得 + 不動産所得(▲赤字)総所得金額が減り、課税対象額が下がることで税金が還付される
還付金払いすぎた所得税の戻り利益ではなく、あくまで「払いすぎた税金の精算」である

参照元:国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

不動産投資の減価償却が節税に使われる理由

不動産投資における節税スキームの主役と言えるのが「減価償却費」です。これは実際の現金の支出を伴わない「魔法の経費」とも呼ばれます。建物や設備は、購入した年に全額を経費にするのではなく、国が定めた期間(法定耐用年数)に応じて、毎年少しずつ価値が減っていくものとみなして経費計上していく会計上のルールです。お金が出ていかないのに経費として計上できるため、手元の現金を残しつつ帳簿上の利益を減らす、あるいは意図的に赤字を作ることが可能になります。

例えば、新築のワンルームマンションの場合、構造は鉄筋コンクリート造(RC造)となり、法定耐用年数は47年と定められています。建物本体の価格を47年かけて薄く長く経費化していくため、実は単年での経費計上額はそれほど大きくありません。これが新築ワンルーム投資の節税効果が薄いと言われる理由の一つです。一方で、中古物件、特に築20年を超えた木造アパートなどでは、「(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 × 0.2」という計算式により、極端に短い期間(例えば4年など)で建物の価値を償却できるため、短期間で巨額の経費を計上し、年収数千万円クラスの高所得者の税金をゼロにするようなスキームも存在しました(※現在は税制改正により封じ込められつつあります)。

ワンルーム投資においては、建物部分(躯体)と設備部分(エアコン、給湯器、エレベーターなど)に分けて減価償却を行うことが一般的です。建物は47年と長いですが、設備部分は15年などの短い期間で償却できるため、購入当初の数年間は設備分の減価償却費が乗っかり、経費が大きくなりやすく、見かけ上の赤字を作りやすい構造になっています。営業マンは、この減価償却費による「現金の出ない経費」の効果を強調しますが、減価償却には必ず「終わり」が来るという事実については、あまり触れたがりません。

参照元:国税庁 No.2100 減価償却のあらまし

サラリーマンの給与所得と損益通算の基本

一般的なサラリーマンの給与所得は、「ガラス張り」と言われるように、税務署に完全に把握されており、経費計上の余地がほとんどありません。自営業者であれば、パソコン代や家賃の一部、接待交際費などを経費にできますが、会社員はスーツ代や靴代、飲み会代を経費として申告することは原則として認められていません。「特定支出控除」という制度は存在しますが、適用要件が非常に厳しく、ハードルが高すぎるのが現実です。そのため、年収が上がれば上がるほど、累進課税によって高い税率が適用され、額面ほど手取り額が伸び悩むというジレンマを多くのサラリーマンが抱えています。

ここに「不動産所得」という「別の財布(事業)」を持つことで、意図的に経費を積み上げ、給与所得と合算(損益通算)できるのが不動産投資の特権です。金融商品である株や投資信託、FXなどで発生した損失は、原則として給与所得と通算することはできません(分離課税)。しかし、不動産所得は事業所得などと同様に「総合課税制度」の中に組み込まれており、給与所得との通算が認められています。これが、不動産投資が「サラリーマンができる唯一の節税対策」と呼ばれる所以です。

以下の表は、年収ごとの所得税・住民税の目安と、不動産所得で100万円の帳簿上の赤字を作った場合の節税効果の概算です。年収が高いほど適用される税率が高いため、同じ「100万円の赤字」でも、戻ってくる税金(還付金+住民税減税額)が多くなることがわかります。これが、年収500万円の人よりも、年収1000万円以上の高属性サラリーマンばかりが、執拗に不動産投資の勧誘を受ける理由なのです。

年収(額面)所得税率(概算)住民税率合計税率100万円赤字時の節税額(目安)備考
500万円10%10%20%約20万円リスクに対してリターン(節税額)が小さい
800万円23%10%33%約33万円税率が上がり始め、節税の提案を受けやすい層
1200万円33%10%43%約43万円高税率のため節税効果を強く実感しやすい
2000万円40%10%50%約50万円半分が戻る計算だが、物件価格も高額になりがち

※復興特別所得税は考慮していません。また、基礎控除や社会保険料控除などは個人により異なります。

参照元:国税庁 No.2260 所得税の税率

節税シミュレーションが甘くなりやすい理由

不動産会社が販売時に提示してくるシミュレーション資料は、基本的に購入の意思決定を後押しするために、極めて楽観的、かつ購入者に都合の良い数字で作られています。まず、節税効果をアピールするために、初年度に発生する諸費用(登記費用、ローン事務手数料、仲介手数料、不動産取得税など)をすべて経費に入れ込み、「初年度はこんなに税金が戻ってきます!」と、初年度の大きな赤字による還付金を強調することが常套手段です。しかし、これらの経費は一度きりのものであり、2年目以降は発生しません。

また、空室リスクや家賃下落リスクが極めて低く見積もられている、あるいは全く考慮されていないことがほとんどです。「家賃保証(サブリース)があるから大丈夫」と言われることもありますが、サブリース契約自体が数年ごとに見直され、家賃が減額されるリスクがあることは小さくしか記載されていません。さらに、将来的に上昇することが確定している修繕積立金の値上げも、シミュレーション上では「変動なし」として計算されているケースが散見されます。

最も危険なのは、「デッドクロス」と呼ばれる現象がシミュレーション期間に含まれていない、あるいは説明されないことです。ローンの元金返済が進むにつれて支払利息(経費になる)が減り、一方で減価償却期間が終了すると経費が激減します。すると、実際の手残りは少ない(あるいはマイナス)なのに、帳簿上は黒字になり、多額の税金が発生する時期が必ず訪れます。多くのシミュレーションは、この不都合な真実が露呈する前の、美味しい期間だけで区切られているか、あえて曖昧にされているのです。

営業トークで強調されがちな節税メリット

営業マンのトークスクリプトには、サラリーマンの将来に対する漠然とした不安を煽りつつ、その解決策として「節税」を提示する巧妙な心理テクニックが組み込まれています。例えば、「増税メガネ」などと揶揄される昨今の増税トレンドや社会保険料の負担増を引き合いに出し、「何もしなければ、あなたの手取りは減る一方ですよ」「国はサラリーマンを守ってくれません」と危機感を煽ります。その上で、「確定申告をするだけで、国から合法的に数十万円を取り戻せます」と畳み掛けます。

よくあるトークとして、「住民税が安くなるので、手取りが増えた実感がありますよ」というものがあります。所得税は3月の確定申告後に還付金として銀行口座に振り込まれますが、住民税は6月からの給与天引き額が減る形で反映されます。毎月の給与明細の手取り額が目に見えて増えるため、確かに効果を実感しやすく、同僚に対して優越感を感じることもできます。しかし、これはあくまで不動産投資による「赤字」の結果であり、事業の損失を補填しているに過ぎないことを忘れてはいけません。

また、「生命保険代わりになります」というトークとセットで語られることも非常に多いです。ローンに付帯する団体信用生命保険(団信)のメリット(死亡時にローンがチャラになる)と、節税メリットを組み合わせ、「実質負担ゼロ、あるいは節税分でプラスになりながら、数千万円の保険に入り、将来の資産形成ができる」と説明されます。しかし、冷静に考えれば、赤字を出して税金を取り戻す行為は、事業として失敗している状態を税制で補填しているに過ぎず、保険料の代わりとしてはあまりにリスクが高すぎる選択と言えるでしょう。

初心者ほど信じやすい「節税ワード」の罠

不動産投資の知識がない初心者ほど、専門用語を並べられたもっともらしい説明や、裏技的な提案に弱いものです。「経費計上」「損益通算」「還付申告」「減価償却」といった言葉は、なんだか自分が特別な投資家になり、得をしているような錯覚を与えます。特に、普段仕事で経費を使えないサラリーマンにとって、「家族旅行の一部を物件視察として経費にできる」「情報交換のための飲み代を経費にできる」「自家用車を経費にできる」といったグレーゾーン、あるいはブラックに近い節税指南は、背徳的な魅力すら感じさせます。

しかし、税務署はワンルームマンション投資の節税スキームを熟知しています。サラリーマンが週末に少し不動産管理をする程度で、多額の交際費や旅費交通費が発生することは不自然であり、過度な経費計上は税務調査の対象となりやすいのです。もし調査が入れば、過去に遡って否認され、追徴課税や重加算税という重いペナルティが待っています。営業マンは「みんなやってますよ」「バレませんよ」と言って売ってしまえば終わりですが、確定申告書に署名捺印し、最終的に税務署と対峙する責任を負うのは投資家本人です。

魔法の杖のような「節税ワード」に踊らされないためには、不動産投資の本質はあくまで「賃貸経営」であり、利益を出して堂々と納税することが本来の健全な姿であることを理解する必要があります。「赤字を出すこと」を前提としたビジネスモデルなど、通常の事業感覚ではあり得ないことであり、それがまかり通っている不動産投資業界の異常さに気づくべきなのです。

ワンルーム投資 節税という言葉が一人歩きする背景

なぜここまでワンルーム投資と「節税」がセットで語られるようになったのでしょうか。それは、バブル崩壊後の地価下落や長引くデフレ、低金利政策、そしてサラリーマンの平均給与の伸び悩みという社会的背景が大きく影響しています。かつて不動産投資といえば、土地の値上がり益(キャピタルゲイン)を狙うものでしたが、価格が上がらない時代においては、家賃収入(インカムゲイン)重視へとシフトしました。

しかし、都心のワンルームマンション価格は投資マネーの流入などにより高騰し続けており、一方で家賃はそれほど上がっていません。その結果、表面利回りは4%前後、実質利回りはもっと低い水準まで低下しています。普通に運用してはキャッシュフローが出ない、あるいはマイナスになる物件が増え、商品としての魅力が低下しました。そこで、販売業者が苦肉の策として生み出したのが「節税」という付加価値を前面に出す販売手法です。

つまり、「節税」を売りにしている物件は、裏を返せば「節税効果以外に売りがない」、投資単体としては収益性の低い物件である可能性が極めて高いのです。本来の投資の目的である「利益」が出ないため、税金の還付という「副作用」を主目的としてすり替えているのです。現在は、キャピタルゲインもインカムゲインも厳しく、結果としてタックスゲイン(節税)に活路を見出すしかないという、歪んだ構造が業界に定着してしまっているのが実情です。

ワンルーム投資が節税にならない現実と落とし穴

ここからは、甘いシミュレーションのベールを剥がし、ワンルーム投資の厳しい現実について、具体的な数字の動きを交えながら解説していきます。節税効果は決して永続的なものではなく、時間の経過とともに薄れ、やがては重い負担へと変わっていきます。多くの投資家が購入後5年から10年経って初めて気づくことになる、収支の悪化や予期せぬ出費、そして出口戦略の難しさについて、その構造的な問題を深掘りしていきましょう。


【以下で分かること】

  • 節税効果が高いのは「初年度だけ」の理由
  • 手元資金がないのに課税される「黒字倒産」の恐怖
  • 節税額を吹き飛ばす「修繕・管理コスト」の実態
  • 売却時に手残りを減らす「譲渡所得税」の仕組み

節税効果が出るのは最初の数年だけ

ワンルームマンション投資による節税効果が最も高く、営業マンのシミュレーション通りになるのは、間違いなく購入した「初年度」だけです。これは、登記費用(登録免許税、司法書士報酬)、ローン事務手数料、仲介手数料(中古物件の場合)、不動産取得税といった、物件取得にかかる一時的かつ多額の諸費用を、その年一括して経費計上できるからです。この年だけは、数十万円から百万円単位の赤字を作ることが容易で、年収に応じた相応の還付金を受け取ることができます。

しかし、2年目以降はこれらの諸費用経費がなくなります。経費として計上できるのは、減価償却費、借入金の利子、管理委託費、固定資産税などに限られます。新築ワンルームの場合、建物や設備の減価償却費はそれなりの金額になりますが、それでも初年度ほどのインパクトはありません。さらに、住宅ローン控除のように10年、13年と続く制度とは異なり、不動産所得の赤字による損益通算は、赤字が出ている間しか使えません。

さらに5年、6年と経過すると、定率法で計算される設備の減価償却費は年々減少していきます。定率法とは、未償却残高に一定率を掛けて計算するため、初年度が最も高く、年々金額が減っていく償却方法です。つまり、経費として計上できる金額が、時間の経過とともに自動的に少なくなっていくのです。営業マンが見せるシミュレーションの多くは、この初年度の大きな節税効果を強調し、それがさも毎年続くかのように錯覚させますが、現実は数年で節税効果はスズメの涙ほどになり、やがて「節税」から「納税」が必要な状態へと移行します。

家賃収入より経費が少なくなるタイミング

不動産投資の収支において、投資家を最も苦しめるのが「デッドクロス」と呼ばれる逆転現象です。これは、ローンの元金返済額が、減価償却費を上回ってしまった状態を指します。このメカニズムを理解するには、「経費になるお金」と「経費にならないお金」の区別が必要です。銀行へのローン返済額は「元金」と「利息」で構成されていますが、経費として認められるのは「利息」部分だけで、「元金」の返済は単なる借金の返済であり、経費にはなりません。

投資開始から年数が経つと、元利均等返済であれば、以下のような変化が徐々に、しかし確実に進行します。

  1. 利息の減少と元金の増加
    ローン返済が進むにつれて借入残高が減るため、利息部分(経費)が減り、その分だけ元金返済部分(経費にならない支出)が増えていきます。
  2. 減価償却費の減少・終了
    設備などの減価償却期間が終了すると、それまで大きなウェイトを占めていた減価償却費(経費)がゼロになる、もしくは大幅に減ります。

このダブルパンチにより、帳簿上の経費が激減し、家賃収入が経費を上回って「黒字」が発生します。黒字になれば当然、所得税と住民税が課税されます。しかし、手元の現金は「経費にならない元金返済」や「管理費」の支払いで消えているため、「手元に現金は残っていない(あるいはマイナス)なのに、税金だけ請求される」という事態に陥ります。これを「黒字倒産状態」と呼びます。多くのワンルーム投資家が、築10年~15年あたりでこの壁にぶつかり、節税どころか納税の苦しみを味わうことになります。

修繕費・管理費が想定以上にかかる現実

マンション経営において避けて通れないのが、建物の老朽化に伴う維持管理コストの増加です。毎月支払う「修繕積立金」は、新築時や築浅時は販売しやすくするために安く設定されていますが、5年ごと、10年ごとに見直され、段階的に値上げされるのが一般的です。長期修繕計画に基づいて計算されるため、購入時の金額のまま推移することはまずありません。当初数千円だった積立金が、10年後には2倍、3倍になることも珍しくなく、これが毎月のキャッシュフローを直接圧迫します。

さらに、専有部分(部屋の中)の設備故障はすべてオーナーの自己負担です。エアコン、給湯器、IHコンロ、換気扇などは10年〜15年で寿命を迎えます。例えば、給湯器の交換には10万円〜20万円、エアコンも工事費込みで10万円前後はかかります。また、入居者が退去した際の原状回復費用(クロス張り替え、床の補修、クリーニング)も、ガイドラインにより入居者負担分が減っており、オーナーの持ち出しになるケースが増えています。

これらの突発的な数十万円単位の支出は、営業マンが提示する節税シミュレーションにはほとんど含まれていません。「年間10万円の節税ができました」と喜んでいても、一度の給湯器交換で15万円飛んでいけば、数年分の節税努力が一瞬で吹き飛んでしまいます。さらに、空室期間中の家賃収入ゼロ、広告費(AD)の支払いなどを考慮すれば、節税という微々たるメリットを追い求めるあまり、こうした「確実に来るコスト増」という巨大なリスクを軽視するのは非常に危険と言わざるを得ません。

参照元:国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

節税できても手残りが増えない理由

そもそも論として、「節税」とは利益が出て初めて意味を持つものです。赤字を出して税金を減らすというのは、自分の資産を削って税金を減らしているに過ぎません。例えば、所得税・住民税の合計税率が30%の人が、不動産投資で現金の支出を伴う100万円の赤字を出したとします。損益通算で30万円の税金が戻ってきたとしても、手元からは100万円が出ていっているわけですから、トータルでは「100万円 - 30万円 = 70万円」のマイナスです。これを「節税できた」と喜ぶのは、数字のマジックに騙されています。

ワンルーム投資でよくあるのが、毎月1万5千円の手出し(年間18万円のマイナス)をして、確定申告で10万円の還付を受けるパターンです。これでも「年間8万円の純損失」です。営業マンはこれを「生命保険料だと思えば安いものです」「将来の年金を作るための積立です」などと言いくるめますが、投資の観点から見れば、単に毎年8万円ずつ資産を減らしているだけの「損失」です。

本当に資産を増やす投資とは、税金を払ってでも手元に現金が残る状態(キャッシュフローが出ている状態)のことです。手残りを増やさずに節税額だけを最大化しようとするのは、本末転倒な行為です。それはまるで、財布に穴を空けてお金をばら撒き、そのこぼれ落ちたお金の一部を拾い集めて「お金が戻ってきた!」と喜んでいるようなものだと認識する必要があります。

年収が高くないサラリーマンほど節税メリットは小さい

記事の前半で述べたように、日本の所得税は「超過累進課税制度」を採用しています。課税所得が高い人ほど税率が高く、低い人ほど税率は低くなります。これは裏を返せば、年収が高くない(例えば年収500万円〜700万円程度の)サラリーマンにとっては、損益通算による節税メリットが極めて小さいことを意味します。

例えば、年収500万円前後の場合、所得税率は10%程度、住民税と合わせても20%程度です。苦労して不動産で100万円の赤字を作っても、その赤字額の2割(20万円)しか戻ってきません。残りの80万円は純粋な負担となります。一方で、空室リスクや金利上昇リスク、物件価格の下落リスク、地震などの災害リスクは、年収2000万円の人と同じように背負うことになります。

リスクとリターン(この場合は節税額)のバランスが全く取れていないのです。年収1200万円以上の層であれば、税率が33%〜40%と高いため、赤字の4割〜5割が戻ってくる計算になり、多少のメリットは出るかもしれません(それでもリスクはありますが)。しかし、年収500万円〜800万円の層が節税目的でワンルームマンションを買うのは、ハイリスク・ローリターンであり、得られる果実が少なすぎる典型的な「負け戦」と言えます。営業マンがこの層をターゲットにするのは、単に「ローンが通る属性だから」であり、決して「投資メリットがあるから」ではないのです。

参照元:国税庁 No.2260 所得税の税率

売却時に待っている譲渡所得税の存在

「毎月の収支が悪化してきたから、そろそろ売却して手仕舞いしよう」。そう考えた時に待ち受けている最後の罠が「譲渡所得税」です。不動産を売却して利益が出た場合、その利益に対して税金がかかります。ここで極めて注意が必要なのは、利益の計算方法です。「買った値段より安く売ったから、利益なんて出ていないし税金もかからないだろう」と考えるのは大きな間違いです。

譲渡所得(売却益)の計算式は以下の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 -(購入価格 - 減価償却費の合計)- 譲渡費用

この式にある**(購入価格 - 減価償却費の合計)**は「簿価(帳簿上の価値)」と呼ばれます。毎年の確定申告で減価償却費を経費計上して「節税」してきましたが、その分だけ物件の「簿価」はどんどん下がっています。つまり、購入時よりもかなり低い価格でしか売れなかったとしても、簿価がそれ以上に下がっていれば、計算上は多額の利益が出たことになり、課税されるのです。

例えば、3000万円で買った物件を10年間運用し、減価償却で簿価が2000万円まで下がっていたとします。これを2500万円で売却した場合、感覚的には「3000万で買って2500万で売ったから500万の損」ですが、税務上は「2000万の価値のものを2500万で売ったから500万の利益」とみなされます。保有期間が5年超(長期譲渡所得)なら約20%の税率がかかるため、約100万円の税金を支払わなければなりません。これまでコツコツ節税してきた金額を、最後の売却時にまとめて吐き出すことになる。これが、ワンルーム投資が「節税」ではなく「税金の繰り延べ(先送り)」に過ぎないと言われる本当の理由です。

参照元:国税庁 No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)

ワンルーム投資が節税にならない本当の理由【まとめ】

最後に、今回の記事で解説したワンルーム投資と節税の真実について、絶対に押さえておくべき重要なポイントをまとめます。これらを一つでも理解できていない点があるなら、契約書にサインをするべきではありません。

  • ワンルーム投資の節税は、不動産所得の「赤字」を給与所得と相殺する仕組みである
  • 節税効果が劇的に高いのは、多額の諸費用を経費化できる初年度だけである
  • 2年目以降は経費計上できる項目が減り、節税効果は急速に薄れていく
  • 減価償却期間が終わると経費が激減し、税負担が急増する「デッドクロス」が待っている
  • ローンの元金返済が進むと、経費になる利息部分が減り、逆に納税額が増える
  • 将来的な修繕積立金の値上げや、突発的な設備修繕費は、年間の節税額を容易に超える
  • 年収が高くない層は元の税率が低いため、背負うリスクに見合うだけの節税効果がない
  • 毎月の手出し(赤字)を還付金で補填する状態は、投資ではなく単なる「損失の補填」である
  • 売却時には、過去に計上した減価償却費の分だけ簿価が下がっており、譲渡所得税が発生しやすい
  • トータルで見ると、節税できたのではなく、単なる「税金の支払時期を先送りにしただけ」に過ぎない

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